人気ブログランキング | 話題のタグを見る

RUKAの雑記ノート(現在休止中)

rukachas.exblog.jp
ブログトップ

デビルマンと現代人

デビルマン先日、永井豪氏の漫画「デビルマン」を最終話まで読む機会があった。
デビルマンと言っても若い人にはピンとこないだろうし、私と同じ世代でもTVアニメしか見たことないという人も多いと思うが、原作の漫画はTVアニメの印象とは程遠い、悲しいまでの重々しさで満ちていた。

取り立ててリアルな描写でもないのに、受けた印象はかなりおぞましかった。何が凄いって、いとも簡単に少年漫画のタブーを打ち破ったこと。
少年漫画にはタブーがある。たとえ恐怖マンガであっても、主人公は簡単に死んではいけないとか、子供が残酷な殺され方をする描写はダメだとか、読者の気分を害するような展開はなるべく避けるものだ。
ところがデビルマンの原作は、よくまぁ当時の少年誌(少年マガジン)でこういう展開を許したなと思うくらい、救いようのない残酷さが繰り広げられている。

たとえば、母親から虐待を受け体中キズだらけの幼児が、お父さんが帰ってくるまではお母さんのそばにいたくないと、夜遅くまで公園で時間をつぶすシーンがある。
しかし迎えに来た母親に家に連れ戻されてしまい、いつものように犬をけしかけられる。帰って来た父親に助けを求めるが、父親も豹変しその子へと襲いかかる。そして次のページでは、首を切られたその子の姿が。

あまり書くとネタバレになってしまうが、1話からずっと登場してきた準主役級キャラや場を和ませてきた小さな子供のキャラが、ほんの数コマのあいだに見るも無惨な姿で殺されてしまうのだから、その展開のあっけなさには唖然としてしまった。

永井豪氏はこの漫画で人間と悪魔との戦いを描いてはいるが、地球を我が物顔で支配してきた人間の罪深さを訴えているようにも感じた。
少年誌で扱うべきテーマ&描写だったかどうかはわからないが、原爆被害をありのままに伝えた「はだしのゲン」も当時少年ジャンプでの連載だったのだから、若い読者を対象にしたことは無意味では無かったように思う。
もし古本屋で「デビルマン」を見かけたら、ぜひ手に取って読んでほしい。永井豪氏お得意の色っぽい女性悪魔キャラも、別な意味で迫力満点。(^^)

ところで、デビルマンの連載は1972年だが、私は劇中のこんなセリフが印象に残った。主人公「不動明」のクラスメイトが教室で雄弁に語るシーンがある。セリフは適当に端折るが・・・

『21世紀、つまりわずか30年後、世界の人口は現在の倍近くになっている。現在37億の地球人口が30年後には軽く70億を突破するんだ。そこで大変なのが食料問題。70億人分の食料はないんだよ。つまり70億人のうちの何割かは食料が手に入らない。昔は食料がなくなると戦争が起こった。そして戦争で多くの人が死ぬ。そして生き残った人に食料が行き渡る。再び平和が来て人口が増える。また食料が無くなり戦争が起こる、といった具合に戦争が人口調節になっているわけだ。ところがこれから戦争は起こりにくくなる。今度戦争が起これば核戦争になるからだ。核戦争は人口調節どころか人類の滅亡を意味する。だから戦争は簡単には起こせない...』

漫画のセリフではあるが、あながちデタラメでもなく、当時の人々の実際の見解と考えても良いだろう。このセリフを要約するとこうなる。
「30年後、世界の人口は倍の70億になる」
「そのとき70億人分の食料は無く、食料不足が起こる」
「これから戦争は起こりにくくなる」

さて、実際に30年が経ったが結果はどうだろう?
2006年の現在、地球の人口は約65億人。30年前の予想どおり、ほぼ倍になったわけだ。では食料はどうかというと、たしかに世界の飢餓問題は決して解決されてはいないが、少なくとも人口が増えたために食料が減ったということは無いように思う。(飢餓人口そのものは、1990年代前半に一旦減ったが、その後また増え続けているそうだ)
先進国での食料の生産、備蓄、流通においては、現代は人類すべてを補ってあまりあるほどの規模で動いている。ところがそれでも世界にまんべんなく行き渡らないのだから、テクノロジーの発達が先進国のエゴに追いつかなかった、といったところだろうか。

最後の「これから戦争は起こりにくくなる」だが、たしかに30年前はベトナム戦争を切っ掛けとした反戦運動が盛んであり、過去の戦争の記憶もあることから、誰も第三次世界大戦など考えもしなかった。日本も高度経済成長期の、いわば良い意味での平和ボケの時代だった。

だが21世紀になり、本当に行く先がボケてきた。今の世界情勢を見ると、戦争が起こりにくくなるどころか核戦争さえ起こしそうな勢いだ。東アジア情勢も緊迫化しており、日本も軍国化に向け少しずつ突き進んでいるように思える。

30年前の漫画「デビルマン」では、デーモン(悪魔)たちは人間に取り憑き、心と体を支配した。そろそろ人間の心に巣くう悪魔が、顔を出す頃なのかもしれない。
by rukachas | 2006-05-17 21:18 | 懐古の話